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「エンジニアから警察官へ。きっかけは、なにか変わったことがしたかった」
携帯電話やインターネットなどのIT技術は現在の私たちの生活の必需品といえるほどに身近な存在となっています。一方、これを悪用したサイバー犯罪も増加の一途をたどっています。情報技術を駆使して犯罪捜査に当たっている渡部好也警部補(42歳)に話を伺いました。
 「サイバー犯罪」という言葉は初耳だという読者もいるかも知れないのですが、どういう犯罪なのですか。 他人のコンピューターに勝手に入り込みID、パスワードを盗んで悪用する不正アクセス、インターネット・オークションを利用した犯罪等コンピュータ技術や電気通信技術を悪用した犯罪を「サイバー犯罪」と呼んでいます。急増する不正アクセスに対処するため平成12年に不正アクセス禁止法が施行され、各都道府県警で捜査・防犯体制の整備が進められてきました。
 犯罪指導係とはまた誤解を受けそうな名称ですが、どういう役割があるのですか。
サイバー犯罪は匿名性が高いこと、不特定多数の人に被害が及ぶこと、証拠を消しやすいこと、国や地域の壁を越えることが容易であることなどの特徴があります。ほぼ同一の手口と思われる事件の被害届が全国各地で出された場合、捜査は各都道府県警の枠を超えて行わなければなりません。北海道内はもちろん他府県警との連携を強化して捜査に当たるには調整役が欠かせないのです。また、犯罪の手口の解明のために、他の捜査部門への技術支援なども行いますが、そうしたことをひっくるめて指導係なのです。
 ということは、コンピュータにはお詳しいわけですね。
大学卒業後は、札幌にある民間のソフトウエア開発会社に8年ほど勤めていました。主にネットワーク開発、社内ネットワークの管理などを担当していました。大学の卒論を書くときにもコンピュータを使いましたし、まぁ、好きだったのですね。
 警察へ転進する動機は何ですか。
具体的なイメージがあったわけではないのですが「何か変わった仕事をしてみたい」という思いはありました。当時、海外のドキュメンタリー番組で、日本人科学者がコンピュータに不正アクセスをしてどうこう、という何か技術的な面でのオーバーラップを感じさせる番組を見て、同じようなことは日本でもあるのだろうな、面白そうだな、という感想を持ちました。ちょうどそのとき、平成8年でしたが、コンピュータ犯罪捜査員の公募が道警であり、それで警察官になったというわけです。
 途中入社で、いきなり専門官ですか。
いや、警察学校を卒業後、札幌中央署の生活安全課や警察本部の生活経済課で闇金融、偽ブランド、海賊版などいわゆる知的財産侵害事犯などを担当しました。中でも印象に残っているのは被害総額数億円という大型詐欺事件で、50人以上の捜査員が投入されました。その後、不正アクセス禁止法の施行とともにサイバー犯罪担当となったのです。
  そうした事犯とサイバー犯罪とで、何か捜査手法の違いというものがありますか。
プロバイダーからの料金請求が急に増えた、などという被害者からの相談をきっかけに捜査を開始します。捜査の入り口はネットワークで、顔が見えない匿名性が特徴のサイバー犯罪では容疑者を特定するまでが大変です。容疑者を特定した後の捜査は、他の犯罪捜査とほとんど変わりません。コンピュータの専門的な知識が役立つのは、違法コピーを作っている現場やオークションに出している現場を検証する、いわゆる現場検証のときですね。
 地道な捜査が続くのでしょうが、仕事で得る満足感はどんなところにありますか
犯人を捕まえて被害者の方に喜んでもらったときはもちろんですが、何か新しい事件解明の手法がひらめいてうまく機能したときには、犯人を捕まえたときの喜びとはまた別の喜びがありますね。デジタルの世界は人の裁量が入りにくいところなのですが、工夫の余地があるもので、物を作り上げたときと同じような喜びというか、その手法が汎用化されて全国の警察で採用されたなら、サイバー犯罪担当としてこの上ない喜びですね。
 サイバー犯罪ならではの苦労もあるのでしょう。
まずは用語が特殊だということですね。検察官や裁判官に事件の概要を理解してもらうには、アイコンとかマウスとか、クリックといった基本的な言葉から説明しなければならないことが多いのです。報告書にイラストを描いて説明したこともあります。
 ネットワークの世界が今後ますます広がることは間違いないと思いますが、犯罪の手口もこれまで以上に複雑になったり多様化したりするのでしょうね。
会話の中で「馬鹿」と言われるのと、文書の中でそう書かれるのとでは受け取る側の印象がまったく異なりますよね。ネット上を駆け巡っている言葉も、何か特別の意識や感情に支配されていると思うのですが、それを整理するために心理学やプロファイリングの知識を取り込んでデータベース化するなどコンピュータ技術と組み合わせることでネット犯罪の捜査に寄与することができるかもしれません。これからの研究課題ですね。
 解決すべき課題を持っているというのは素晴らしいことだと思います。若い人たちは、そこのところで悩んでいると思うのですが。 若いときには、私も明確に目指すものがあったわけではないですよ。ただ、その時々にしなければいけないこと、必要な勉強を一所懸命にやって基礎さえ出来ていれば、将来、何をするにしても選択の幅が広がると思います。自分が何に向いているかということは、幅広い選択肢があってこそ分かることですからね。
【編集後記】
時代の最先端を行くIT業界から転進して警察官になった渡部警部補。勉強は将来の選択肢を広げるためにするもの、という言葉に励まされる若者が多いのではないでしょうか。自身を、趣味もない仕事人間といわれるが、その時々の課題を的確に見つけて、着実に歩みを進めるということの大切さを改めて教えられました。(ただたん) |
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