警務部教養課通訳センター














巡査長 渡部真司
「『夢追い人』から警察通訳へ」
偽装結婚、密輸、詐欺、窃盗、強盗、不法滞在、不法入国など通訳が必要になる場面は北海道の国際化とともに増えています。警察通訳として中国語を担当する渡部真司さん(30歳)にお話を伺います。

yumetan_s
渡部巡査長よろしくお願いいたします。渡部巡査長の仕事はどんな内容ですか?
まず、警察の取扱いにおいて、その時に関係者がどうやら中国語を話しているようだということが分かると、通訳センターに要請がきて、出動します。内容は観光客の迷子の対応から犯罪捜査まで中国語圏(中国、台湾、マレーシア、香港、シンガポール等)の人に対する通訳です。  パスポートの不携帯で呼ばれることが多いですね。日本国籍を有していない方はパスポートまたは外国人登録証明書の携帯が義務づけられています。ところが、不携帯でしかも全く日本語が話せない、怪しい、となると呼ばれるのです。ただし、知っていなければならない法律用語などの専門用語は非常に多いのですが、警察業務の通訳なので使う言葉がある程度限られています。日常生活のなかでの会話が実は最も難しいと感じるのです。

yumetan_s
日常会話が最も難しいとは意外ですね。
私は、もともと「三国志」が大好きで中国に興味はありましたが、中国語を勉強したのは警察官になってからなんです。交番勤務をした後の配属先が機動隊だったのですが、ちょうど2年目のときに語学(ロシア語、韓国語、中国語)を勉強したい人はいるかと聞かれたんですね。「中国語を勉強したいです」と手を上げたのが始まりです。その後、東京にある国際捜査研修所、現在の国際警察センターで丸2年中国語漬け、勉強漬けの日々を送りました。よくよく考えると、この機会を与えられたことはものすごく幸運なことで、無駄にしてはならないと必死で勉強しました。その後、釧路署の留置管理課で看守を1年経験し、道警本部の通訳センターに配属になったのです。

yumetan_s
通訳の際に気をつけることとしてはどんなことがありますか。
まず正確で公平な通訳というのが大前提です。「私たちは人権を尊重しますよ」ということをまず態度で伝えます。全く日本語が話せない状態で日本の警察官に囲まれたら、当然不安ですよね。更に日本語訛りのある中国語を話す人が通訳だと言って現れても、なかなか本心を話す気にはなってくれません。国によっては外国人に対する人権の尊重が希薄な場合もありますので、「私たちはあなたの人権を尊重しますから、話して下さい」と相手に信用してもらえるよう態度に表して接します。また、各国の習慣や文化にも配慮した通訳をします。例えば、日本では放置自転車を許可無く使うのは犯罪なんです。しかし、多くの外国人の方は放置自転車を許可無く使ってもまさか犯罪になるなんて思っていないのです。そこで、中国の方には放置自転車を許可なく使ったら日本では犯罪になるのですよと説明することになります。  また、通訳の相手が中国の方で50歳くらいの人だったとします。この年代の人の父親世代はちょうど中国の激動の時代を生き抜いた層ですから、「あなたのお父さんは若い頃大変苦労されたのでしょうね」 といった話を織り込むことで、あなたの国の文化や歴史も知っていますよ、あなたを理解しようとしていますよというメッセージを送ったり、共感を得たりするよう心掛けています。

yumetan_s
なにか、通訳の仕事で印象にのこっている事件などはありますか?
そうですね、銅屑を盗んで船に積み茨城から室蘭へ向けて出港した14人の中国人窃盗団を、室蘭で逮捕したという事件ですね。私は通訳センターに配属になってまだ日が浅く、配属前の釧路署の留置管理課では中国語を使う機会がほとんどなかったために中国語を忘れかけてしまい、悩んでいました。  そんなときに、刑事さんと私で数日間にわたって犯人の取調べを行ったのです。しかし、相手はプロの窃盗団で、なかなか盗んだことを認めないのです。取調べは1人に何時間もかかるので夜も続きます。刑事さんは1人目の取調べからずーっとテンションが変わらないまま厳しく取調べをするんですよね。盗んだのは誰がみても明らかなのに認めない人は厳しく取調べるのです。でも、私が一緒になって厳しくしたのでは捜査もうまくいきませんから、そういう時は冷静に「この刑事さんが厳しく言っているのはこういうわけなんですよ、彼は、こう言っているのですよ、厳しいことを言うわけが理解できますよね」という具合に通訳していきます。この時刑事さんと一緒に取調べをしたおかげで、悩みもふっきれましたし、その時を境に将来、国際捜査にかかわれるような刑事になりたいと思うようになりました。

yumetan_s
その刑事さんや事件からたくさんのことを学ばれたのですね。 ところで、警察官にはなぜなろうと考えたのですか?
小さなころからあこがれていて、将来、警察官になるんだと言ってはいたのですが。高校生のときには警察への願書提出や採用試験について、時期がきたら先生が教えてくれるだろーなんて思っているうちに、採用試験が終わっていたのです。一方で小、中、高とやっていた野球も続けたいという気持ちもあり、進学を目指して慌てて大学受験勉強をしましたが、結果は不合格。しかし、将来を考えるとちゃんと仕事をしなくてはと思うようになりました。  でも、当時の私は新卒でもない、大学も出ていない、ただの夢追い状態。就職活動にスタートから出遅れているんですよね。そんなときに公務員試験は公平な勝負だと思ったのです。公務員にはどんな職種があるか調べると警察官があって、また警察官への思いが再燃しました。

yumetan_s
では最後に読者へメッセージをお願いします
はい。私は北海道警察に活かしてもらったと思っているのです。チャンスを与えられ、中国語も習わせていただきました。少しずつ大きく育てられているというのを強く実感しています。与えられたチャンスをどれだけ自分のものにしていくかが大切だと考えています。努力があってこそ自分のものになります。  それから私の好きな中国の言葉で、「不怕慢 只怕站(ブーパーマン、ジーパージャン)」というのがあります。「歩み遅きを恐れるな、途中で立ち止まってしまうことを恐れよ」とか「ゆっくりでいいから止まらずに進んで行けば必ず道は開ける」という意味です。お互いがんばりましょう。


yumetan_s
すてきな言葉を教えていただき、本日はありがとうございました。 夢探メッセージもずっと継続していけるよう頑張りたいと思います。

【編集後記】
どうやって中国文化や生活習慣などの勉強をするのですか?と聞くと、台湾や中国の友人に教えてもらったり、新聞やインターネット、少し情報は遅れるけれど衛星放送で中国ドラマも見たりするとのこと。趣味では中国茶にはまっているということでプライベートでも楽しく中国を知ろうとしている渡部巡査長。仕事の責任や壁を、好きだという気持ちを原動力に乗り越えているようでした。(あきたん)